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「県民だよりひょうご」2023年3月号で掲載された「ひょうごフィールドパビリオン」座談会の内容について、ロングバージョンを掲載しています。
齋藤 2025年大阪・関西万博において、県として「ひょうごフィールドパビリオン」を展開することで、兵庫にも人を呼び込み、活性化につなげたいです。
このフィールドパビリオンでは、実際に建築物を建てるのではなく、県全体をパビリオン(展示館)に見立て、各地域の素晴らしい取り組みの現場(フィールド)の魅力を発信していきます。
実際に現場を見て、体験して、その背景をみんなで議論していただく仕組みをつくり、万博後もその取り組みが地域に根付き、持続的な地域活力が展開できるようにと考えています。
その上で、フィールドパビリオンの認定などを行う検討コアメンバー会議の委員である古田さんに、「ひょうごフィールドパビリオン」の特徴についてお考えをお聞きします。
古田さん これまで県が取り組んでいる「兵庫テロワール旅」に関わってきました。“テロワール”は“地域性”という意味で、地域や産品の魅力をその背景も含め味わおうというものです。
フィールドパビリオンでは、産地や産品の背景を知ることに加え、「持続可能な社会の実現(SDGs)」に向け、地域の人々が主体となり、地域の課題解決につながる取り組みを発信することが重視されています。これからの観光はただ訪れるだけでなく、地域の人との交流も旅の目的になるでしょう。
齋藤 フィールドパビリオンの取り組みを展開していく中で、どれくらいの応募があるのか不安がありましたが、多くの方から応募があり、とてもうれしく思っています。
コンテンツの審査はこれからですが、古田さんの印象はいかがですか。
古田さん テロワール旅のコンテンツを探すため、3年間で約100ヶ所を回りました。2年目からは、フィールドパビリオンの候補地探しも加わりました。魅力あるコンテンツが多く、募集前から相当数の応募があるだろうと思っていました。
ただ地域の人が地域の魅力に気付いていないことが多く、地元の魅力にいかに気付くかが重要だと感じています。
認定までの過程では、素晴らしいものはさらに伸ばし、惜しいものにはアドバイスをしています。コンテンツ同士をつなげることで、もっと魅力が増すこともあります。
例えば、複数のコンテンツをつなぎ、宿泊プランとして組み立てることで、長期的な滞在につなげるなど、さまざまな可能性を秘めています。
齋藤 応募されたお二人にも、意気込みをお聞きしたいと思います。
西山さん 2014年(平成26年)の豪雨で酒蔵が被災し、継続が危ぶまれたとき、東日本大震災で被災者された方々が、延べ数百人も来てくださり、地域復興の力となりました。
この災害による危機を乗り越えた経験から、酒造りだけでなく、地域全体の活性化にも貢献していきたいと考えるようになりました。蔵の建物は国の登録有形文化財で、県の景観形成重要建造物にも登録されているので、これらを活用した事業で人を呼び込み、地域の活性化につなげたいと考えています。
齋藤 県内外から人を呼ぶことが、自分だけでなく地域全体に波及があるという視点は、大事です。
玉木さんは、いかがですか。
齋藤 目標が明確になると、達成のための意欲がわきますね。
齋藤 万博のテーマの一つに「持続可能な社会の実現」があります。地場産業も苦しい状況の中で、どのようにして未来につなげるかが課題ですね。
玉木さん 播州織は繁栄した時代に分業化されました。効率よく大量に良いものを生産する技術が発達した反面、全ての工程を知る人が減ってしまいました。
現況として、産業の生産性が落ちており、産地を立て直そうとなっても、立場ごとに視点が違い、全体を俯瞰できないという課題があります。
そこで、万博までに私自身が全工程を学ぶことで、産地の潤滑油となって全体をつないでいこうと考えました。製織、加工だけでなく、コットンの栽培を始め、紡績機を導入して、糸作りもする予定です。
職人さんの高齢化も進んでいるので、今のうちにいろいろと受け継いでおきたいです。
齋藤 地場産業は分業化がありますが、産地全体で何か始めようというときに、それが弱点となってしまいます。全工程を知り、全体をつなぐことで、産地の持続可能性を生み出していくのですね。
西山さんは、どのようにお考えですか。
西山さん 日本酒は、若い人たちには敷居が高い世界です。そこで、酒に特化するのではなく、酒造りを生かしながら、酒以外に間口を広げたいと考えています。
今秋、築150年の蔵を改装して、発酵をテーマにした複合施設をオープンします。ヨーグルトなどの発酵食を食べたり、発酵調味料を作ったりしてもらうことで、それを入口に、日本酒に興味を持っていただけたらうれしいです。
齋藤 今日お持ちいただいたものも発酵食品ですか。
西山さん 地元の氷上乳業さんと共同開発した飲むヨーグルトです。こうじの甘みだけで作った甘酒とヨーグルトを合わせた発酵食です。
齋藤 今注目されている発酵食品を通じて、日本酒を知っていただくいい機会になりますね。
知ってもらい、見てもらい、体験してもらうことが大切だと思います。体験プログラムなどをつくっていくにあたり、どういうところが課題だと思いますか。
玉木さん 製品を作っている工房は、見学や染色などの体験も可能です。モノづくりが簡単だと誤解されることは、避けたいと思っています。
例えば、藍染め体験は簡単にできますが、アイ(藍)の栽培を含めた前工程はとても手間暇のかかる大変な作業です。そこを誤解されないよう、体験プログラムの前にその背景もきちんと伝えなくてはいけません。
古田さん 観光コンテンツには、そこでしかできない体験の機会が求められています。特に欧米では、手仕事を国外に発注するようになったので、日本の手仕事にとても価値を感じてくれます。
片手間のワークショップではなく、宿泊してじっくり本物の体験をしていただけたらと思いますが、中には手軽さを求める人もいます。大変ですが、両方のプログラムを用意しておく方がいいかもしれないですね。
西山さん 外国語を話せる人材が少なく、インバウンドの対応が課題です。コンテンツの価格設定も、自分たちでは客観的に判断ができず悩みます。
齋藤 外国の方に対する価格設定などは、難しいですね。播州織の工房には、外国の方は来られますか。
玉木さん 英語が話せる従業員に対応してもらっています。英語が話せなくても、ジェスチャーで伝わる部分はあると感じています。
齋藤 非言語でも伝わることもありますね。
玉木さん 意外と現場の対応はなんとかなりますが、活動や体験内容の紹介文の作成、電話での予約のやりとりなどが大変です。
西山さん 社員として外国の方も受け入れています。語学ができる人材がいますが、いつでもいるわけではないので、電話対応などに不安を持つ社員もいます。何か対応する仕組みができないかなと感じています。
齋藤 この点は、フィールドパビリオンを展開するにあたって、プラットフォームとしての課題ですね。
古田さん 言葉については、全国的な課題になっています。地域ごとに一括で申し込みを受け、通訳ガイドを手配する方法もありますが、まだあまり例がありません。フィールドパビリオンをきっかけに、通訳などの対応に取り組むことで、先進県になることもできます。
ただ、富裕層はガイドを連れてくるので、それほど心配はいりません。
また、今後はオンラインの申し込みが増えると思うので、専門の事業者に予約の受け付け業務を依頼する方法もあるでしょう。
外国の方にとって、日本語の響きがいいという意見もあります。恐れずにやっているうちに、自然と覚える言語もあるようです。私は岐阜の高山出身ですが、高山の女将さんで5言語を話せる方がいます。お客さんに常に聞かれることがあるので、その分野の言葉については覚えたそうです。
齋藤 世界でもモノづくりの産地が存亡の危機にあります。兵庫でも地場産業が苦しい中、産業として生産を続け進化しようと取り組んでいることが、実は人類共通の世界の課題解決につながるかもしれないのです。
万博終了後も、フィールドパビリオンの枠組みが地域にどのように根付いていくかも重要です。
古田さん 単なる再生でなく、単なるイノベーションでなく、昔のものをきちんと見つめ、生かし、新たなものを生み出す「リジェネラティブ」という概念が注目されています。
この飲むヨーグルトも昔の技術を組み合わせてできていますし、播州織でも昔の技術を受け継ぎながら、デザインや用途は新しいものを生み出していく「リジェネラティブ」なモノづくりが行われています。
フィールドパビリオンでは、そういうものを見つけ出すきっかけの場となるはずです。再編成されてイノベーションが起こることで、新しい兵庫が生まれます。それは「懐かしい未来」になるのではないでしょうか。
兵庫は、日本の始まりの地があるなど歴史ある土地なので、その地から「少し新しい日本」を、「懐かしい未来」を提案していくことが、万博後も続いていけばと思います。
齋藤 フィールドパビリオンには、万博の来場者だけでなく、県内の子どもや若い人たちにも訪れてほしいと考えています。ふるさとを知り、誇りを持つことが、兵庫で働き続けたい、地場産業をやりたいというきっかけになり、人口流出の抑制にもつながればと考えます。
万博を遠い世界の話でなく、県内の皆さんが“自分ごと”として捉えていただけたらと思います。
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