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兵庫県内の自治体と県内外スタートアップが協働し、社会課題の解決を目指す『ひょうごTECHイノベーションプロジェクト』。事業レポート02では、看護師(オペ看)の手術担当表作成の医療DXについてお届けします。
1.まるでパズル。オペ看を悩ます手術担当・配置表作成業務(現状課題)
2.医師としての経験が活きてくる。クオトミーが現場の課題を調査(現場確認)
3.クオトミーの本領発揮。1週間で出来たシステムイメージ(システム設計)
4.出来上がったプロトタイプ。白熱する議論(システム開発)
5.ついに来たナースステーションでの実証。オペ看の感触はいかに(現場実証)
6.みんなの期待を背負い、システム完成まであと一歩(今後について)
7.スムーズにいった?大変だった?はり姫とクオトミーのホンネ(実証を終えて)
実証過程の動画は以下の画像をクリックしてご覧ください。

「パズルです。もしくはクロスワードですね。複数の資料を見比べながら、上手くスケジュールがはまった時に、やっと安心できます。ほんとに大変です。」
その業務を経験したことのあるオペ看(手術室の業務を担当する看護師のこと)は皆、口をそろえてそう答えてくれた。パズルと聞けば楽しそうだが、実際は、手術室の担当・配置表作成である。
今回の舞台は、兵庫県立はりま姫路総合医療センターの看護部。愛称「はり姫」と呼ばれるこの病院は、播磨圏域唯一の3次救急を担う総合病院だ。手術室は16室あり、手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」も導入するなど、地域医療の要となっている。
その最前線で、オペ看たちは、手術を受ける患者のケア、手術を執刀する医師のサポートに奔走している。
多いときで、手術は一日40件に上る。その手術を管理する上で担当・配置表作成は欠かせない。しかも、各手術の内容を熟知しチーム全体を俯瞰できる、10年ほど経験を積んだベテランのオペ看である”統括リーダ”しかできない仕事だ。その仕事が”パズル”みたいなのだ。
「看護師の月間勤務表を見て、翌日の勤務看護師を確認します。
つぎに医師が記入した手術申込を確認します。
つぎに各看護師に優先して経験させたい手術項目を確認します。
つぎに若手看護師の手術の習熟度の資料を確認します。
この後に、翌日の担当・配置表を作ります。」
話を聞いているだけで混乱する。
4、5枚の紙資料を確認しながら、翌日の担当・配置表を作らないといけないのだ。
もちろん、「こちらを立てればあちらが立たぬ」状態に陥ることもある。
「忙しいときは、私も他の業務を手伝わなければなりません。担当・配置表を作り始めて、仕事に出て、また戻ってきて表作って、って感じです。ほんとに大変です。」
ナースステーションで担当・配置表を作成していた統括リーダが実情を教えてくれた。オペ看は約60名、その中で統括リーダとしての役割を担えるのは20名もいない。そのようなベテランが、事務作業に追われるのは大きな損失だ。

「若手看護師の育成に注力しないといけないが、今はその時間が全くない。手術室の勤務表作成に費やしている時間を、若手看護師のオリエンテーションや指導などに割ければね、、、」
人材担当の黒田さんはこう語る。もどかしい気持ちが伝わってくる。

プロポーザル審査を経て、選ばれたのは株式会社クオトミー。医師でもある大谷さんが、医療従事者の課題を解決することで、医療を支えたいとの想いから創業した、ヘルスケアスタートアップだ。スマート手術台帳サービス「OpeOne」を展開し、外科系医師の非医療業務の効率化に取り組んでいる。
「別の展示会で出会った方から、ひょうごTECHイノベーションプロジェクトについてお話を頂きました。話を聞くと、病院における具体的な課題だったので、これは自分たちの出番だと思い、すぐに応募しました。」
今回の実証プロジェクトでは、医師の生産性向上を目的とした「OpeOne」から一歩事業範囲を広げて、看護師のDXに取り組むことになる。
「私自身、病院での勤務経験もあり、大枠のイメージはつかめていますが、病院ごとや医師・看護師の立場ごとで、考えや運用は違うので、不安は少しあります。」
大谷さんは、いち早く、はり姫の現場感覚をつかむことを意識していた。
10月下旬。はり姫の待合室で、大谷さんはじめ、3人のクオトミーのスタッフが集まる。最近のスタートアップらしく普段はリモートワーク中心。今日は、東京・大阪・福岡からそれぞれ姫路に足を運んだ。
黒田さんと面会し、中央材料室に向かう。
電子カルテの導入状況や現場での運用フローなどを詳しく聞き取っていく。
「インプラントの管理状況なども教えてただいていいですか?」
インプラント(外科手術に使う手術器材)の在庫管理状況や業者の動きなど、医師としての目線で、動線や気になる部分をチェックしていく。


クオトミーのスタッフと看護師たちが、小さなテーブルに頭を突き合わせて、ついに担当・配置表の話が始まる。
「言葉では伝わりにくいかなと思って、資料を作ってきました。」
とオペ看からクオトミーのスタッフに、パラパラと資料が渡された。資料の多さに課題の深刻さが垣間見える。

「看護師さんがどんなことをしているか、大体のイメージがあるんですが、、、」
大谷さんにしても、立場の違う看護師の細かい運用フローなどは門外漢。ましてや勤務していない病院だ。
「実は、若手看護師の習熟度をA・B・Cなどで管理してまして。」
「えっそんなことしてるんですか!?すごいですね。」
予想以上に体系化された、はり姫の看護師育成体制に驚きつつ、質問に質問を重ね、担当・配置表作成フローの全体像を把握していく大谷さん。ここでも医師としての経験が活かされ、早速”器械出し”、”外回り”などの業界用語が飛び交う議論となった。
「例えば、看護師が、ある手術で一人前になるには5年もかかる。そういったことを考えると、育成の初期段階から計画的に勤務に取り入れていきたい。」
「若手看護師たちは、前日の夜に、翌日の手術の勉強をしたりする。紙の表を見に行かくてもいい方法があれば。」
スムーズに話を進める大谷さんに安心したのか、オペ看の正直な思いが言葉の節々に現れてくる。

最後に、病院内の通信インフラについて確認を行い、現場確認は終了。4時間ぶっ通しだったが、大谷さんも満足そうだ。
「大体のイメージはできた。勤務表をスキャンして読み取れば、現在の通信環境を変えずに進めることができそう。」帰り際、大谷さんはこうつぶやく。もう頭の中で骨子が描けたようだ。
「先日現場を見させてもらった内容を整理してみました。”統括リーダ”が翌日のスケジュールを作成し、当日は別の”当日リーダ”がそれ見て指示を出す。」
1週間後のオンライン会議でパッと大谷さんが資料を見せた。現場でヒアリングした勤務表作成フローが綺麗に整理されていた。

「今まで紙でやっていたことが、今後こういう形にできるのではと思います。そして最終的にはこのような形になれば。」
将来像が示される。ウンウンとオペ看たちも画面越しにうなずく。はり姫側とのイメージとも合致している。

「デジタル化した勤務表イメージはこんな感じです。取り込んだデータをもとに、推奨勤務パターンを作成します。あとは手動で個別調整できるような仕組みにできれば。」
システムの操作画面イメージが示される。シンプルかつモダンな雰囲気だ。
「この氏名の横の卵みたいなんは何ですか?」
不思議そうな顔をしたオペ看から質問が飛んだ。
「看護師の手術経験レベルに合わせてアイコンを表示します。」
卵、ひよこ、ニワトリ、最後はフェニックスとレベルが上がっていくようだ。
看護師の経験値が、システムの中でも可視化される。担当・配置表作成の効率化だけでなく、育成に対する思いもシステムにも反映されようとしている。
12月中旬、大谷さんの姿が再びはり姫のナースステーションにあった。
「ここで、医師が入力した手術申込がわかるんですね。」
「麻酔科医のスケジュールはいつ反映されるんですか?」
「ここの部分、診療科リーダはいつ希望を書いてるんですかね?」
担当・配置表作成業務で使用するデータや資料について、ベテランのオペ看を質問攻めにする。

「ありがとうございます。今日、完全に理解しました。やはり、はり姫さんは、きれいにデータを整理されていますね。」
医師として、そしてスタートアップの代表として色んな病院を見てきた大谷さんから、感心の一言があった。場所によっては、勤務スケジュールをホワイトボードで管理している病院もあるらしい。
1時間弱、ナースステーションで大谷さんとオペ看による密度の高い会話がなされた。
「色々確認出来てよかったです。実は今日、システムのプロトタイプの画面を作ってきたんで、ぜひご確認いただきたいと思います。」
と大谷さんから提案。
会議室のプロジェクターを使い、スクリーンにシステム画面が映し出された。その横に大谷さんが立つ。
「事前にアップロードした看護師の経験度や勤務状況、当日の手術予定をシステムで判断し、自動で推奨配置を作ります。」
大谷さんの、わかりやすく引き込まれるような説明を、オペ看たちが固唾を飲んで聞いている。
「画面上部に、当日勤務の看護師の一覧が表示されます。画面真ん中には、16室ある手術室の欄です。”人員を配置する”ボタンをクリックしてみてください。」
大谷さんの指示に従い、ボタンをクリックすると、オペ看が各手術室に配置された。

「紙とにらめっこしていた業務をデジタル化・自動化する。そして、誰でも見れるようにLINEなどでスケジュール配信もできるようにする。」
大谷さんのまるでプレゼンのような説明が終了した。ここからはオペ看から質問タイム。
「使える機器が手術室ごとに違ったりするから、急遽、手術室を大きく入れ替えたりするんですよ、それにも対応できたら嬉しい。」
「緊急で、勤務予定とは違う担当者が手術に入ることもある、そういった場合の履歴も反映してほしい。」
「最近は、プライベートで繋がらない人も多い。LINEじゃない配信方法がいいかも。」
ドバっと意見の雨が降ってきた。今までふわっとしていたシステム化が、一気に現実味を帯びてきた。大谷さんはスマホにメモをしたり、その場で提案したり大忙し。
昼休憩の時間に入ったのも忘れるほど熱い議論が続いた。

「やっぱり実際にあって話さないとわからないこともありますよね。再度現場にこれてよかったです。」
そう言って、大谷さんが、にこやかにはり姫を後にした。
大谷さんが現地でヒアリングした後、チャットでやり取りをしながら、実証用のシステムができた。いよいよ現場実証だ。
今までは紙であふれていた担当・配置表作成。これだとパソコン1台で済む。
「まずはログインします。次に医師が記入した”手術申し込み”に書かれた手術名と看護師側で管理用に使っている手術名を突合させていきます。」
統括リーダのオペ看が、システムを操作していく。ドロップダウンリストをクリックし、項目を数十個入れる。

「次に、この”人員を配置する”をクリックすると、システムが自動で配置をしてくれます。」
画面に”1分ほどで完了します”と表示される。ちょうど1分たった頃、画面が切り替わる。
「これで推奨配置が完成しました。」
手術予定の”器械だし”、”外回り”、”入室”などの看護師の役割の欄に、オペ看の名前が配置されている。名前の横には、手術経験度を表す”ひよこ”や”ニワトリ”のマークが出ていた。

「あとは、個別調整したい人をクリックで入れ替えて、あっここをクリックすると候補者一覧も表示されます。」
「全て完了したら、完了をクリックです。メール配信のメッセージとQRコードが表示されますね。」
最終的には、プリンターと接続し、紙出力も可能になる予定だ。

「今まで半日ほどかかっていたのが、これが入れば5分もかからない。」
隣にいた別のオペ看が驚きと喜びの声をあげる。
「ほんとに助かります。若手と一緒に現場に出たり、若手を教えたりする時間が増える。」
「早く導入してほしい~。」
それぞれ、はやる気持ちを語ってくれる。

「システムが入れば、担当・配置表作成スキルのばらつきも減って、若手看護師の育成が数か月でも早まってくれればと思って。そして、オペ看になった看護師が、システムによって正しく評価され、適切に配置されているんだと思って、気持ちよく働いてくれれば。」
日々、若手看護師のこと、そしてオペ看のチーム全体を考えている黒田さん。ゴールが見えた実証に声が弾む。
一方でまだ乗り越えるべき課題もある。
手術情報に関する表現が、医師側と看護師側で違うのだ。例えば、医師は”TM-TAVI”と記載するが、看護師側の評価体系では”TAVI”となっている。導入にあたっては、この差異をシステムで判別するのか、運用でカバーするのかまだ決まっていない。
「まだ完成形じゃないけど、AI判定などで精度を高めたりもできそうだし、そうなればね、ぐっと仕事が楽になる。」正式導入にはまだ超える山がありそうだが、その道筋はしっかりと見えている。
「最近、医療DXという言葉が流行っているけど、中々実感もできず、縁遠い話だと思っていた。でもこうやってスタートアップの力を借りて、目の前の業務のデジタル化ができることがわかってほんとにうれしい気持ちです。」
黒田さんが明るい声で教えてくれた。
「クオトミーの大谷さんが実際に医師としての医療従事経験があるから、病院の仕組みや困っているところを直ぐに理解してくれて、サクサク話が進んでいった、本当にありがたかった。」
クオトミーへの感謝も忘れない。

「医療現場は、こういったプロジェクトのノウハウが乏しく、思い通りにいかないことも多い。今回は、黒田さんはじめ、課題感と熱意を持った方が多く、積極的に意見も出していただいたし、可能な限りデータ提供もいただいた。おかげさまで順調に進めることができた。」
とクオトミーの大谷さん
「今回の実証で、我々の提案したシステムが、課題の解決策として上手く機能しそうだとわかった。今の形をベースに機能をブラッシュアップしていき、サービスとして皆さんに実際に使っていただけるようになれば。」
次のステップを見据えたコメントもいただいた。
実際に、はり姫とともに他病院に対する実証内容の共有なども予定している。

大変だと思いつつ、これからもずーっと変わらないと思っていた担当・配置表作成。自分たちには縁遠い話だと思っていた医療DX。そんなはり姫のナースステーションが、ひょうごTECHイノベーションプロジェクトで様変わり。
自分たちだけじゃできなくても、スタートアップと二人三脚なら実現できるかも。そんな気持ちが芽生えた半年間となった。
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